文学フリマは展示即売会である。おそらく最も知名度が高い即売会であるコミックマーケットは同人誌即売会という形を取っており、企業も参加しているものの、その主体はどこにも属さない創作者たちだ。もちろん文学フリマの主体も同じ創作者だが、私はコミックマーケットにない魅力を文学フリマは備えていると感じている。ここでは紙面には掲載しきれなかった情報を紹介し、文学フリマのさらなる魅力を伝えたいと思う。

文学フリマがどのような歴史を辿ってきたかについては紙面の通りだ。しかし、このようなイベントが全国各地で開催されることはそうあることではない。先ほど引き合いに出したコミックマーケットも基本的には東京もしくは関東地域での開催である。大阪など他の地域でも同様の趣旨のイベントが開催されているが、主催団体は異なっている。ある作品のみ出店可能なイベントは全国各地で開催されることもあるが、規模の大きいイベントはどうしても開催地が東京、大阪などの人口集中地域に限定されがちだ。

しかし文学フリマは東京、大阪だけでなく、福岡や岩手、札幌、京都、広島などでも開催されている。広範囲にわたる開催のため、全国どこに住んでいても参加が可能だろう。「地方での開催は不定期」ということもなく、その多くが毎年開催されていることにも注目だ。

ここまで開催地を広げた根底には「文学フリマ百都市構想」がある。2002年に初めて東京で文学フリマが開催されてから2013年まで、1回を除いて全て東京で開催されていた。東京は交通の便も良く人口も多いため、参加できる人も多いだろう。しかし、東京に行くことが気軽にできない地域に住んでいる人はどうだろうか。そう考えた文学フリマ事務局は「地元で文学フリマを開催したいか」について意見を募った。これが文学フリマ百都市構想の始まりであり、実際に2013年に大阪で開催されたことを皮切りに全国各地で開催されるようになる。

今年は8回の文学フリマ開催が予定され、すでに2回の開催が無事終了している。地元や住んでいる場所の近くで開催されるものに参加するだけの人もいるが、出店者、来場者の中には地方に遠征して参加する人もいるそうだ。これは開催地によって違った雰囲気があるためだと文学フリマ事務局は話す。例えば大阪では、会場が比較的和気あいあいとした雰囲気になる。出店者と来場者の間で会話がよく交わされるそうだ。隣の京都府では人の滞在時間が他と比べると長いなど、それぞれの会場で参加者が雰囲気を作り出している。出店される作品の傾向も開催地によって異なり、東京は現在ノンフィクションが流行しているそうだ。京都は詩、札幌は小説の出店傾向が他と比べて強く、出店される作品の傾向がまた違った特色を醸し出しているのだ。複数の開催に参加する人の気持ちがよくわかる。

特筆すべきことは、この雰囲気の醸成に文学フリマ事務局は恣意的には関与していないということだ。文学フリマの主催側は「開催地域による特色を演出しないこと」をモットーに全国展開している。参加者が求めているものはあくまで「いつもの文学フリマを自分の地域でも」ということであり、地域限定といった要素は求めていないからだ。それでも会場の雰囲気、出店作品の傾向に違いがある。これは出店者、来場者がもたらしたものであり、改めて展示即売会は参加者主体のイベントなのだとわかった。

文学フリマの開催以外にも、文学フリマ事務局は他の小説投稿サイトなどとのコラボを行っている。過去には有名な小説投稿サイト「小説家になろう」とコラボして短編小説賞を開催した他、現在(2022年5月21日時点)pixiv小説とのコラボで「トイレットSSコンテスト」を開催している。即売会で出店するのはハードルが高い、でも作品を評価してほしいという人は、こういった企画に参加してみるのもいいだろう。

ここまで文学フリマの魅力を伝えてきたが、文学フリマ事務局から学生へのメッセージを預かっている。それは、学生にもこのような活動にぜひ参加してほしいということだ。SNSが普及し、私たち学生の中でそのどれにも触れていないという人は少ないだろう。「SNSの中で私たちはたくさん文章を書くようになりました。若者の読書離れと言われて久しいですが、今の若者は昔よりずっと文章を書く機会が多くなっています。そこから半歩でもいいので踏み出し、エッセイや小説を書いてみる、普段の考えや頭の中に浮かんだとりとめのない想像を作品として形にする。形にできたのならどこかで発表したくなるかもしれません。そこで文学フリマに参加し、売ってみるというのはいかがでしょう」と文学フリマ事務局は伝えてくれた。

文学フリマについて掲載された5月号の発行から最も近い開催は、5月29日の「文学フリマ東京」だ。来場に事前予約や申込は不要、入場料も無料だ。文学に興味がある、会場の雰囲気に興味がある、といった人にぜひおすすめしたい。そしてぜひ創作の道に足を踏み入れてほしい、と同じく創作をする身として思う。

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