知的障がいのある人に向けたメイクアップボランティア「LapizMOGA」の代表、石川琴子さん。知的障がいのある人はメイクに触れる機会が少ないということへの気づき、加えて本学に障がい福祉の土壌があまりないことへの課題感から、今年1月、LapizMOGAを立ち上げた。

知的障がいのある方は、いわゆる特別支援学校や事業所など障がいのある人だけが集まる場所に通うことになりがちだ。それだけでなく、特別支援学校の男女比は 約2:1と男性が多く、女性がクラスに1~2人だけという状況も少ないという。

石川さんは「『ノーメイクを選ぶこと(メイクをしないことを選ぶこと)』と『メイクを知らないこと』は大きく違う」と話す。自己肯定感を高め、生活を豊かにできるメイクに、障がいのある人も、よりアクセスしやすくなってほしいそうだ。

また前述の通り、本学は、国際系の社会貢献分野には強い印象があるが、障がい福祉の土壌があまりないと感じていた石川さん。「『メイク』という切り口であれば、ファッションやトレンドに敏感な本学学生の得意をそのまま生かせる。その上、障がいのある人は学校や施設から一歩外に出て大学生と関わるというインクルーシブな場での素敵な体験ができる」と考えたそうだ。

石川さんには知的障がいの妹がいる。「知的障がい」に対してマイナスイメージがあると感じていた石川さんは、友人をLapizMOGAのメンバーに誘う際、「妹が自閉症だ」と告白することにまず勇気が必要だったそうだ。なぜなら街中でひとりごとを言う知的障がい者が通報されてしまったり、犯罪を起こすイメージがあったり、マイナスイメージが少なくないと感じていたからだ。しかし、友人の接し方は変わらなかった。石川さんは「結婚相手や恋人,友人に、『家族に障がいがあると言えない』という悩みは、きょうだい児(知的障がいのある方が兄弟にいる人)に多く聞かれるが、ぜひ少しの勇気を持って伝えてみてほしい」と語る。受け入れてもらえた場合、相手のことをより好きになることができる。また、相手が「知的障がい者」に対して持つイメージが「街中で独り言を言う変な人」から「友達の弟、妹」などに変わることは、他人事から自分事へと、理解促進につながると石川さんは考えている。

LapizMOGAでは毎月、知的障がいのある人にメイクアップと撮影を行うイベントを開催している。撮った写真は障がい者手帳の更新時やマイナンバーカード、就活用などに幅広く使用されている。そのため、ボランティアはメイクが得意な人だけでなく、カメラが得意な人も募集中だ。また現時点では女性のみで活動しているものの、男性も歓迎しているそうだ。

10月にはボランティアスタッフも子供たちと一緒に仮装をし、ハロウィンメイクを施すイベントも計画中だという。通常のメイクイベントでは、1日12人までメイクできる環境だが、保護者への周知が足りず、1日2、3人ほどの参加に留まっている。そのため石川さんは「周知が一番の課題だ」と話す。「この活動は、参加者がいないと始まらないため、学生ボランティア、当事者の双方にアプローチしていきたい」と語った。

だが、実際に参加した人やその保護者には好評だという。そのため、石川さんは「ゆっくりと口コミが広まるのを待つつもりだ。『18歳の療育手帳の更新と言えばLapizMOGA』になるように頑張りたい」と意気込んだ。

周知の課題がある一方で、参加者がメイク後に鏡を見て、輝いた表情をしていたとき、活動をしてよかったと思うそうだ。石川さんは「知的障がいのある人は、言葉よりも表情や動作が雄弁だ」とし、イベント終了後に撮影した写真を見て「こんなにいい表情をされていたんだ!」とうれしい驚きがあるという。また保護者から「こんなに良い表情の娘は見たことがない」「うちの子もおしゃれに興味があったとは知らなかった」などのメッセージをもらうと、とても嬉しいと語る。

今後の目標について、石川さんは「障がいのある人にも『メイクして友だちとカフェでお茶する権利』を推進することだ」と話す。関わった大学生が、見た目にわからない障がいのある人への偏見を持たずに社会に出ることで、障がいのある人たちがより出かけやすい雰囲気の世の中になってほしいそうだ。「特別扱いでも、邪魔者扱いでもなく、同じ人間として一対一の関係が築ける人が1人でも増えていってほしい」と話す石川さん。また、「おしゃれというイメージがある本学学生が、障がいのある人とメイクを通じて接する姿はとても先進的だ」とし、「その様子を発信することで、福祉に対するマイナスのイメージも刷新されていってほしい」と話す。

今後の活動について石川さんは「本学構内でイベントを開催したり、メイクをするだけでなく一緒にそのまま遊びにいけるようなイベントもやってみたい」と語る。メイクをして、海にアイスを食べにいくなどの何気ない日常や、私たちが楽しいと思えることを障がいのある人たちにも同じように広げて行きたいという。障がい福祉に、新しい風を吹き込んでいく石川さんたちの活動に今後も目が離せない。