夏休み前に発行する本号では、暑い夏にも楽しめるミュージカルについて特集する。様々なミュージカル作品を手掛けているシーエイティプロデュースで現在制作の仕事に携わっていて、本学卒業生でもある渡辺葵さん(10年度卒・仏文)に話を聞いた。

 舞台制作の仕事は多岐に渡り、スタッフやキャストの選定からスケジュールや予算の管理、宣伝、グッズの制作など、「舞台に関わるすべて」を行うと渡辺さんは話す。幅広い仕事内容故に、ミュージカルに精通した人にしか出来ない仕事なのではないかと思いきや、一番大切なのは「挨拶や敬語といった基本」だという。仕事の中では沢山の人と関わる場面が多いため、基本的な礼儀やコミュニケーション能力が最も重要なのだそうだ。実際にシーエイティプロデュースでも全く別の業界から中途採用で入社する人が多いそうで、「何でもするからこそどんなスキルも役に立つ」と教えてくれた。


 渡辺さんは今まで担当した中で印象に残っている作品として『フロッグとトード』を挙げる。この作品は『ガマくんとカエルくん』というタイトルで国語の教科書に掲載されていることでも知られているが、子供も大人も楽しめるミュージカルを作るために工夫を凝らしたという。例えば、パンフレットは挿絵を塗り絵にして、塗り絵ブックとしても楽しめる仕様にした。主演を務めた川平慈英さんの「子供向けだと思って作ってはいけない」という言葉が今も心に残っているそうだ。


 渡辺さんは在学中に映像制作のサークルABSで渉外を担当していたという。当時の思い出を振り返りながら「元々渉外の仕事は得意分野ではなかったが、先輩たちよりもお客さんを呼びたいという負けず嫌いの精神で頑張った」と話してくれた。こまめに情報をチェックしてはメールで仲間に共有し、他大学のサークルの活動にも足を運ぶなど、日々緻密な努力を重ねた。その結果、10人ほどだったお客さんが100人以上になったのだという。このABSでの経験が直接仕事に生きているわけではないとしたうえで、「大学時代で一番頑張ったと言えることがあるのは自信につながった」と話してくれた。


 舞台業界全体でチケットの値上げもあり、ミュージカルは年々気軽に行けるものではなくなっている。しかし渡辺さんはそれを踏まえながら「それでもやはり、映像では伝わらない生での魅力を楽しんでもらいたい」と話してくれた。大学生はこれから長い夏休みの後、芸術の秋が訪れる。ぜひ一度、ミュージカルの魅力を感じに劇場に足を運んでみるのはいかがだろうか。