渡辺昌宏教授担当の「流体構造連成力学研究室」。この名前を聞いても、多くの人にとってはなじみのない単語の連続だろう。しかし扉を開けると、そこは「水と空気による振動の謎」を解き明かす、ディープな世界が広がっている。

 まず「水と空気による振動」について簡単に説明してもらった。「例えば、風の強い日に飲食店ののぼり旗がはためいているのを見たことがあるだろう。研究室では、このような流れによる振動を自由自在にコントロールする研究を行っている」。水や空気の流れによって引き起こされる振動は「フラッタ」と呼ばれ、薄く柔軟な媒体であるほど発生しやすい。印刷紙や機能性フィルム(以下、シート)の製造ラインでは、塗装の乾燥やハンドリング(シートを巻き取る技術)を行う過程で、必然的に強いフラッタが発生してしまう。これは、シートの品質不良や生産性の低下を招く原因となるため、発生を抑止する技術が必要とされている。

 しかし、非接触で行う制振手法の研究報告は現時点で渡辺研究室のみ。渡辺教授が「謎」のために研究を行う理由はここにあり、専門研究として取り組み始めたのも、製造企業で働く技術者からの「触れずに振動を止めたい」という要望に応えたい思いがきっかけだったという。教授はこの分野の研究を「謎解きとひらめきの連続」と表現した。

 そんな渡辺教授は、大の愛犬家である。現在飼っているのはオスの柴犬で、名前は「柚子」。この名前は、先代の愛犬から引き継がれているそうだ。「研究からは少し離れて、一緒に遊んだり散歩をしたりすることが日々の癒しになっています」と笑顔で話してくれた。

 渡辺研究室は現在、富士フイルムと共同研究を行っている。今後は、より大きな面積のシートを非接触かつ傷つけずにハンドリングする技術の確立を目指しているそうだ。「マニアックな研究分野ではあるが、人々の暮らしを支えている技術の一つであることは確か。皆さんも、表立ってはいない研究の積み重ねが日常生活をより豊かにしてくれている、ということをときどき思い出してくれたらうれしい」と語った。本学に着任して25年、渡辺教授の挑戦はまだまだ終わらない。