東郊住宅社は淵野辺周辺に1800室の賃貸物件を管理し、3000人の入居者がいる。「不動産会社が運営する入居者向けの食堂」という珍しいサービスは、2015年に始まった。
淵野辺は本学以外にも、桜美林大学、麻布大学がある学生の多い街である。そのため物件紹介の際に、保護者から一人暮らしの食事への不安の声を聞くことが多かった。そこで「不動産会社として、食のサポートができないか」と感じたことがサービス開始のきっかけとなった。
トーコーキッチンは部屋のカードキーを差し込むと入店できる仕組みだ。年末年始を除き、8時から20時まで年中無休で営業をしている。価格設定は、大学生の1日の可処分所得に基づいており、朝100円、昼夕500円で手作りの料理を食べることができる。肉料理の日替わり定食、魚料理と丼の2種の週替わり定食などメニューも豊富だ。1日の利用者数は150人から200人で、その7割が大学生。本学サッカー部やバスケットボール部をはじめ運動部員がよく利用しているそうだ。他にも高齢者や共働き、子育て中の人など様々な入居者にも利用されており、誰でも食事を楽しめる工夫を行っている。
トーコーキッチンには、「入居者と顔見知りになれる良さがある」と話す池田さん。定期的にコミュニケーションを取ることで、トラブルを発見しやすくなるという大きなメリットがあるそうだ。
実はサービス開始当初は、価格設定が今とは異なり、夕食では700円のメニューを提供していた。しかし学生の夕食時の利用が少なかった。「大人は700円でも十分安いと感じていたが、大学生にとって700円は高かった。また他の夕食の選択肢も生まれる」。そのことに気づいた池田さんは「夕食も学生にトーコーキッチンに来てもらい、コミュニケーションを取りたい」との思いで、700円のメニューをやめ、昼夕500円とすることに決めた。また「同じ7000円の売上でも『700円を10人』より、『500円を14人』の方がうれしい」とも語った。トーコーキッチンの価格設定は、とことん大学生に寄り添った結果といえる。
最後に学生向けサービスへの思いを聞いた。「『憧れの街』で交通の便が良い青山キャンパスと比べ、淵野辺に住むのは、キャンパスに近いからという消極的理由が多い。その中でも『淵野辺に住んでいてよかった!』と思ってもらえたら」と語っていたのが印象的だった。
ボリューム満点でバランスの良い食事は日々の安心につながる。「いつ来ても、皆にとっての日常であり続けていたい」との思いが込められたトーコーキッチンは、これからも食を通じて、入居者に快適で安心な生活を届けていく。