法学部ヒューマンライツ学科の住吉雅美教授は大の漫画/アニメ好きとして知られており、教授が担当する法哲学の講義では、漫画やアニメから法哲学を考えるという試みが行われている。住吉教授いわく「哲学を抽象的なまま理解することは難しいが、身近なことから考えていくことで、具体的に捉えることができる」とのことだ。本記事では、住吉教授が法哲学の視点からおすすめする漫画/アニメ作品の中から5作品をピックアップして紹介する。

『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博、集英社)

『週刊少年ジャンプ』連載の漫画作品。既刊37巻(2023年9月現在)。主人公ゴン=フリークスと仲間の成長を描いたバトルファンタジー作品。テレビアニメ化もされている。

住吉教授のコメント「特におすすめなのはキメラ=アント編(単行本18巻~30巻)。冨樫義博氏の作品はタブーに踏み込んだものが多い。キメラ=アント編では『なぜ人間と他の生物を掛け合わせることは許されないのか』という疑問を考えさせられる。これは、私が学生時代に同じ質問を先生に尋ねて、ひどく叱られたことがあるくらいのタブー。さらに、『人間は他の生物に対してあまりにも傲慢なのではないか』ということも考えさえられる作品だ」

『寄生獣』(岩明均、講談社)

『月刊アフタヌーン』で連載されていた漫画作品。人間に寄生して捕食するパラサイトと、人類との戦いを描いたSF作品。全10巻。テレビアニメ化、実写映画化もされている。

住吉教授のコメント「主人公の新一と、彼に寄生して共生するミギーとの会話が味わい深い。この作品には様々なメッセージが込められていて、読んでいるときの自分の考え方によってその解釈が変わる。『人権というものは人類の勝手な思い上がりなのではないか』『心に余裕があり、他の生物と共存できるのが人間の最大の強み。今の人類は心の余裕を取り戻すべきだ』といったメッセージが込められている」

『PSYCHO-PASS』(制作:Production I.G)

人間の心理状態を数値化する「シビュラシステム」によって統治された、近未来の日本を描くSFアニメ。テレビシリーズ第1期は全22話。続編となるテレビシリーズや劇場版も多数制作されている。

住吉教授のコメント「このアニメは、『人間は潜在意識によって動かされている』という研究が進んで、犯罪をする可能性がある人があらかじめ隔離されるようになった世界の話。もしそれが可能なら、法律も政府も必要なくなるのではないか、ということを考えさせられる。最近は脳科学が哲学の領域にも台頭してきて、『しょせん人間には自由意思などない。潜在意識に働きかければ動かせるものだ』という議論がされるようになってきたが、果たしてそれは良いことなのだろうか。そういったことを考えるきっかけになるアニメだ」

『機動戦士ガンダムSEED』(制作:サンライズ)

2002年に放送されたロボットアニメ。アムロやシャアが登場する『宇宙世紀シリーズ』とは異なる世界観のガンダム作品。続編となる『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』が2004年に放送された。2024年に劇場版『機動戦士ガンダム SEED FREEDOM』が公開予定。

住吉教授のコメント「初めて見るガンダム作品としても非常におすすめ。キャラクターデザインが良く、登場するモビルスーツもかっこいい。そして何より、遺伝子操作で強化された人間『コーディネーター』と普通の人間『ナチュラル』との対立を描いていて、人間の遺伝子操作は許されるべきなのかということを考えさせられる。また、戦闘用に強化された存在でありながら、非戦という選択をするコーディネーターを描いているのも見どころだ」

『九条の大罪』(真鍋昌平、小学館)

『ビッグコミックスピリッツ』で連載中の漫画作品。前科がある人物や暴力団員からの依頼を受ける弁護士、九条間人の物語。既刊8巻(2023年9月現在)。

住吉教授のコメント「この作品を読むと、法律や裁判が綺麗なものではないということがよく分かる。裁判で解決したからといって全てが解決するわけではないことを教えてくれる。特に、これから法学部で勉強して法曹を目指すという人に読んでほしい」

気になった作品があればチェックしてみてほしい。数多の漫画やアニメを見てきた住吉教授が、自信をもっておすすめする作品たちだ。既に見たことがある作品でも、新たに法哲学につながる疑問が湧いてくるかもしれない。