コンピュータをより快適に、便利に活用するための方法を研究するHCI(ヒューマンコンピュータインタラクション)。今回は、本学理工学部情報テクノロジー学科のコンピュータヒューマンインタラクションラボを訪れた。

伊藤雄一教授率いる『χ(カイ)Lab.』は、操作の主体が人間であるHCIから転じて、コンピュータに操作の主体があるコンピュータヒューマンインタラクション(CHI)の研究に励んでいる。

普段、我々は多くのコンピュータに囲まれながら生活しており、それらをディスプレイやキーボード・マウスなどのデバイスを通して活用している。伊藤教授らは、コンピュータから人が「無意識」に恩恵を得る社会の構築を目指しているという。今回は、伊藤教授と上堀まいさん(院博1)に話を聞いた。

 上堀さんは現在、五感が味覚にどのような影響を及ぼすかというテーマで研究に取り組んでいる。実際に、上堀さんが開発したタンブラー型デバイスを体験させてもらった。

「まず、オレンジジュースを通常のタンブラーで飲んでもらいます。そのあと、飲み口だけを冷やしたタンブラーでもう一度オレンジジュースを飲んでください」。そう指示され、飲み比べた。飲み口を冷やしたタンブラーで飲んだ方が、酸味が強く、味も濃く感じた。

 食体験には個人差があるものの、飲み口の温度によって飲料の味を強調できることが研究で明らかになっている。つまり、調味料や添加物を用いずとも、飲料の本来の味を際立たせ、よりおいしく感じさせることができるということだ。

 このような実験結果を応用すると、被災地や水不足が起きている地域で貢献できるという。上堀さんは「研究がさらに進めば、より少量の飲料や食料で十分な潤いや充足感を得ることができるかもしれない」と将来性を説明した。

日本未発売(取材時)のApple Vision Proを用いて説明する伊藤教授

 『χLab.』では、この研究の他にも「ペンにかかる圧力をもとに解答の自信度を判定するペン型デバイス」や「動作を解析して人物やその人の状況を判定する椅子や床」、「複数のセンサーで赤ちゃんが泣くタイミングを識別するスマートベッド」など、多くの研究が行われている。

『χLab.』での研究は実用性が高く、数々の有名企業と共同研究を行っている。伊藤教授は「研究室の中でひたすら行う研究は面白くないと思う。企業と協力して、いつか社会に還元できるような、面白い研究の方が魅力的だ」と語る。

 さらに、研究室の雰囲気も興味深い。取材当日、初めて入った『χLab.』で印象的だったのは、植物の多さと雰囲気の明るさだった。緑と一流企業のオフィスのような内装に囲まれた環境は、研究者以外にとっても理想的だろう。

博士号取得者の就職難やアカハラが取り沙汰されている中、『χLab.』の人気が高い理由が見えてきた。

伊藤教授は「頑張っている人には支援を惜しまない」がモットーだという。今後、さらなる研究成果が期待できそうだ。