大学の卒業が近づくと皆意識するだろう青春の終わりと、就職活動(以下、就活)。今回は、就活支援を行う進路・就職センター(以下、センター)の平井昇さんに話を聞いた。初めにセンターの就活支援における取り組み、コロナ禍を経た現在の就職状況を教えてもらい、最後に、平井さんの支援に対する思いに迫った。

まず、センターが力を入れている取り組みについて聞くと、平井さんはセンターが掲げる支援の「3つの柱」について教えてくれた。1つ目は「情報提供」だ。センターでは、進路就職支援システム「Web Ash」の運営や、手帳型のハンドブック「Ash手帳」や新入生向けの「青山学院大学キャリアデザインブック」の配布を行っており、それぞれの情報媒体で学生に応じた情報を提供している。

「Web Ash」では、就活や企業に関する情報をリアルタイムかつオンラインで閲覧できる(詳しくは381号5面で取り上げている)。一方、「Ash手帳」は、新大学3年生や新院生1年に配付する手帳で、就活の適性検査やその対策、身だしなみの注意事項など就活で気をつけることが細かく掲載され、面接時の書き込みができるメモ欄や日程を管理するためのスケジュール帳部分も付いている。手帳型であることを活かし、「いつでも身につけておくことができ、何か確認したいことがあるときにその場で開いて確認できる」支援を目指しているという。平井さんが実際に手に取って見せてくれたが、一見ただの手帳に見えるシックな作りで、厚手のブックカバーとカラー印刷の丈夫なページなどしっかりした作りに驚かされた。確かにこれならば、選考時や就活に持ち歩きやすい。

「Ash」とは、「青山学院大学就職支援ハンドブック」の頭文字をとっているが、もう一つ込められた意味があるという。「あともう一つはね、灰」と語る平井さん。首を傾げていると、「燃え尽きた後の灰、Ash手帳が灰になるくらい、ボロボロになるくらい使ってほしい」と教えてくれた。なお、「Ash手帳」のウェブ版という位置付けのため、「Web Ash」という名前だという。

新入生に配布される「青山学院大学キャリアデザインブック」については、大学生になったばかりの学生に「大学4年間を通して将来的に自分のキャリアをどのように形成するか」を考えるヒントになることを目指しているという。早い段階から自身のキャリアについて考え準備することで、本格的に就活が始まる3年時にスムーズに就職活動に移行できるという。一方で、平井さんは3年生になれば就活が否応なく始まるので、それまでは学業やクラブ活動、ボランティアや留学などに打ち込み、多くの経験をしながら交友関係を広げ、キャンパスライフを楽しむことを忘れないでほしいと締め括った。

2つ目の支援の柱は「個別相談」だ。センターでは、職員やキャリアカウンセラーが就活に関する学生の悩みを聞き、必要に応じてアドバイスを行う。就活を何から始めればいいかという相談を受けることもあれば、企業選考を受けるのに必要なエントリーシート(以下、ES)の書き方の指導や添削、面接の練習なども請け負い、幅広いサポートを行っている。相談件数はリピーター含め1万5000件を超えるという。キャリアカウンセラーは国家資格であるものの、資格の有無に関わらず、職員それぞれが人生経験で培ったものを還元できるよう真摯に学生と向き合っているという。

最後の支援の柱は「支援行事」だ。就活関連のセミナーやガイダンス、年間350件ほどをセンター主導で開催し、学生の就活全般をサポートする。具体的には、まず、学年ごとにガイダンスを開き、キャリア形成の助けになるよう努める。特に3年生時に行われるガイダンスでは、就活を何から始めるか、スケジュールはどう組むかなど就活への具体的な臨み方を丁寧に教えてくれる。4年生時では、企業が訪問し説明会や模擬面接を行うこともある。

年間を通して多くの行事が行われるが、その内容は対面式の模擬面接の実施、ESやSPIの対策指導など多様だ。特に、近年ではインターンシップに参加するのも選考を設ける企業がある。インターン生を引き受けるキャパシティの限界や準備のコストなどに由来するが、ESやSPI対策の重要性は高まっている。

センターでは多くのセミナーや幅広い支援が展開されているが、裏返せばそれは、就活に臨む学生に求められる対策の幅広さを示していると平井さんは指摘した。「やることが多いため余裕がなくなってしまうこともある。そんな時に学生一人ではカバーしきれない部分を自分たちが支援する」と力強く語った。

Web版の「Ash手帳」として、「Web Ash」では「Ash手帳」の内容をデータとして閲覧できる。また、センターに相談したい場合は「Web Ash」内の「相談予約」から、セミナーや行事に申し込みたい場合は「学内イベント」からそれぞれの申し込みができる。これらのサービスはすべて無料で利用できる上、ともすれば、外部の悪質な就活塾や就活エージェントと関わる可能性を限りなく低くできるので、安心して利用できるということも強調してくれた。

次に、センターの活動から離れ、現在の大学生の就職状況について聞くと、平井さんは「売り手市場ではあるが、厳しい現実もある」と答えた。コロナ禍収束により増加した大卒求人倍率(卒業予定の大学生・大学院生に対する求人倍率。「大学求人倍率調査」(2025年卒)リクルートワークス研究所調べ)は学生の売り手市場の基準である1・6倍を超えた1・75倍(25年卒)であった。一方で、従業員別にみると、中小企業(従業員数三百人未満)は6・5倍、大企業(従業員数五千人以上)は0・34倍が記録されたためだ。大手企業はその倍率の低さにも関わらず目指す人も多いが、中堅・中小企業ならではの働きがいを重視し就職する人もいる。どの企業を選ぶかは個人の価値観により異なる。卒業後どのような働き方や進路を目指すか、日頃から少しずつ考えてほしいと平井さんは話した。

また、過去の卒業生と比較しながら現在の本学卒業生の就職先についても教えてくれた。本学から就職した人数の多い企業を上から見ていくと、過去の卒業生(16年卒)は銀行系、損害保険会社、航空会社のキャビアンテンダントに多くが就職していた。しかし、現在は人数は分散し、コンサル、ITの業種も加わった、さらに、本学から業界別に就職した人の人数を上から見たところ、過去5年、出版社や新聞社も含むIT・情報産業が最も多く、今年は全体の4分の1弱を占めていた。続いて、製造業、金融・保険業が並ぶ。この二つは例年2位と3位として続く。4位に販売業(おろし小売デパートや百貨店など)また、25年卒に見られる大きな特徴として、学術研究・専門技術サービス(コンサルタントや法律事務所、会計事務所など専門的な業務を行う)が去年と比べて大きく伸びて全体の4位となったという。また、運輸(航空系)もコロナ禍以降で盛り返してきている。

学科ごとにみた就職進学割合は全体的に80後半〜90%台となっており、多くの学生は卒業後に就職するという。例外的に、理工学部のみ学生の半分ほどが進学を選ぶ。なぜなら、製造業などの企業は専門的な知識・技術を持った人材を即戦力として求めるために、専門研究を行う修士2年を経た学生の採用率が高いためだという。

まとめると、まず、現在の就職状況については、売り手市場ではあるが大企業はその限りではないことが挙げられる。本学の卒業生に限って言えば、卒業生の就職先は多様になり、今までと異なる業種に多くの人が就職し、就職に進む人も多いが、一方で学部による特色も現れている。

さて、今の大学生の世代はコロナ禍を経験し、当時の冷え切った就職状況や経済状況がニュースでも大きく取り上げられたことを覚えているだろう。しかし、現在、コロナ禍対策は緩和され、収束方向に向かっている。そんな今、コロナ禍前後で就活の何が変わったかを平井さんに聞いた。

まず、先述した通り、統計的にも大卒求人倍率が増加傾向にあることを取り上げ、「企業は手控えていた採用を拡大した」と語る平井さん。実際に、コロナ禍最中の21年卒の1・53倍・22年卒の1・50倍から、25年卒の1・75倍まで上昇している。さらに、コロナ禍で人との接触を避けるために選考や説明会がオンラインで実施されるようになった名残で、今でもオンライン形式を続けている企業も多いという。例えば、遠方の学生で企業に直接赴くのが難しい場合など、オンライン形式は企業と学生の双方にメリットがあるからだ。選考の一部に取り入れるという企業もあり、選考の中で初めの面接はオンラインで、最後の面接だけ対面で行うという形もあるという。そのため、センターでは、面接の対策指導も対面とオンラインの双方が利用できるそうだ。

最後に、平井さんの支援に対する思いを聞いた。「思いとしては、学生のためになりたい」と答えた。長年、本学に勤めてきた平井さんは3年前にセンターに異動し、学生支援に直接携わることは初めてだったという。「学生のために」と思うからこそ、企業から情報を得るのに奔走し、学生の相談を真摯に受けているという。学生と話す時には、学生の思いを聞いた上で、就活動向や時には自身の経験も踏まえて自分のアドバイスをすることを意識しているという。その姿勢は、「時には優しく、時には厳しく」というものになっている。学生の悩みに優しく寄り添い、一方、学生が間違ったことをした時には厳しく伝える。「自分がなるであろう社会人の立場を想像するように」と指導したこともあったという。

就活に取り組んでいる学生に向けてメッセージを聞くと、「困っている時は頼ってほしい」と平井さんは話した。というのも、就活にはパワーが必要で進めているうちに疲れてしまうもうこともあるという。また、順調に進むことばかりではなく、厳しい道のりである。必ずしもうまくいって疲れが報われるともいえない。平井さんは「どの学生も苦労して最終的に自分に合うところを決めていく」ものだと就活を表した。うまくいかず悩んでしまう時は、友達や家族に悩みを打ち明ける。その相談先の一つとして進路・就職に関しては頼れるセンターを知っておいてほしい。使うか使わないかは個人によるが困った時はぜひセンターを訪ねて来てほしいと温かい言葉をかけた。

足を運んでくれれば、職員は全力でサポートする。直接助けられないこともあるかもしれないが、様々なことを考える機会になり、新たな選択肢も提示できる。そうした支援を目指している、と平井さんは今回のインタビューを締め括った。